いるかどうかもわからないとうな神に縋るしかなかったあの日、

あの時間は、もう2度と経験したくない。

それに、彼女がいなくなった病室には、もうここに戻ってくることはないという現実を突きつけられているような気がして足取りも重く、長くいれなかった。

帰り際、彼女のお母さんから受け取った日記帳。

生前の彼女から何かあった時は僕に渡して欲しいと言われていたそうで、まるで他人事のようにお礼だけ述べ病院を去った。

家に帰ると付けっぱなしだったパソコンに彼女に向けて作った曲がそのままになっている事に気づいた。

無意識にその曲を流していた僕は、やっと彼女にはもう2度と会うことが出来ないという現実を突きつけてきた。

そして、彼女のお母さんから預かってきた日記を開こうと手を伸ばし、辞める。

それを何度か繰り返し、読む事を決意した。

開いてみると、彼女らしい綺麗でかつ可愛い字で日記が綴られていた。

今日は新しい曲を書いてみたけど、上手くいかなかったことや、親と喧嘩したこと、空がとても綺麗で作曲意欲が沸いたなど、

僕が知らなかった彼女の日常を覗いているようで複雑な気持ちになった。

ただ、ある日を堺に彼女の日記の内容が変わった。

──────

2月〇日

今日は定期健診の日。いつもの先生から、手術をしないと次に倒れた時は覚悟をしておかないといけないって言われた。

覚悟…しないと、か…。

──────

この日を堺に彼女の日記は何をしてもネガティブになってしまうような暗い内容ばかりになった。

そしてまた彼女の心境に変化があった

──────

4月△日

変な人にあった。私の方のネガティブなんてどうても良くなるぐらい、暗い目をした人に会った。

思わず声を掛けたら泣きそうな、だけど少し嬉しそうな顔をしていて、声を掛けてよかった、なんて思っちゃった。

また今度会えたらもう少し話したいな。

──────

これは…僕の事、だよね。

そしてそこから彼女の日記は僕と会話や出かけた日の思い出ばかりになっていた。

こんなにも彼女の中に僕がいたなんて、知らなかったし、自分の記憶と彼女の日記を照らし合わせると、彼女と同じ気持ちだった瞬間もあってとても幸せだった。

──────

11月✕日

彼に告白された。とても嬉しかった。けど、私の体は日に日に病状が悪化してるってわかる。このままなにもしなかったらどうなるか目に見えてる。

だから、彼の事は好きだけど、悲しませる未来があるうちは一緒にいることはできない。

ごめんね。

──────

彼女は僕のことなんて好きじゃないと思っていた…。

なんで、僕が悲しむと思って一緒にいれないって。そんなの、言ってくれないとわからない。

とめどなく溢れてくる涙を乱暴に拭いながら、彼女が倒れた日の日記になった。

──────

2月□日

最近体調が良くないなって思ってたけど、ついに倒れちゃった。

手術することは確定だけど、戻ってこれるかはわからないって先生にいわれた。

手術が成功したら、私から付き合って欲しいって言うんだ。心配することないからって。

でも、やっぱりもう一度会いたい。会って、笑顔で行ってきますって言いたい。

──────

そこまで読んだ僕は、大人気なく声を出して泣いた。

これまでの彼女との出来事を思い出しながら、止まることの無い涙をただ流した。

Listen to this song


この小説は銀じゃけ様によって書かれました。